ダーニングとは
大好きなカシミアやラムウールのセーター。しかし肝心なベルトの周辺や、目立つ胸元あたりは食べこぼしのシミや虫食い、引っ掛け穴の被害にあいがちです。大好きなソックスもつま先や踵だけがアミ状のスカスカしていて悲しいことがありませんか?
穴のあいてしまったカシミアのセーター
そんなニットのダメージを残念におもっていたところに出会ったダーニング。ずいぶん前になりますが、私のイギリスのニットデザイナー仲間であるレイチェル マフューさんが主宰する東ロンドンにある毛糸店PRICK YOUR FINGER(2015年末に閉店 現在はテキスタイルの研究者としてで活動https://www.facebook.com/Prick-Your-Finger-152755908097875/ )でキノコ型の木製の手芸用具に遭遇。レイチェルさんに、それがダーニングマッシュルームというカケハギ用の用具で、使い方と美学を伝授してもらいました。
東ロンドン、バセナルグリーンにあった毛糸店PRICK YOUR FINGER(2015年末に閉店)
レイチェルさんのダーニングは補修をする衣類の色や素材とコントラストになるような糸を使って、あえてスティッチを強調するというもの。そのスティッチも少しゆがんでいるぐらいのほうが愛らしく、穴やシミでちょっと寂しげだった衣類がうれしそうな表情に生まれ変わるではないですか! 従来のカケハギの‘修繕したということがわからないようにする細密修復技術’とは違い、穴が開いても捨てられない愛着のある衣類に新たな生命を吹き込むかのようです。
テキスタイル研究家として活躍する レイチェル マフューさんのダーニング
衣類や靴下の穴を修繕するといった技術は、物資が乏しい時代にはなくてはならないものでした。アンティークパッチワークの名品の多くも、庶民がほころびた衣類を解いて何年もかけて貯めた生地で作ったものを修繕を繰り返しながら、代々家族で使い続けたもの。
東京浅草にある継ぎはぎされた野良着を所蔵展示をするAMUSE MUSEUMの展示品
日本の、継ぎ当てと刺し子が繰り返し施された江戸時代の東北の農作業着はBOROとして、世界で注目されています。物資不足、貧しさゆえの生活の知恵とはいえ、人がその作業につぎ込んだ時間や気持ち、生活環境、時代背景などを想像すると、擦り切れ、ほころびながらも耐え忍ぶ生地や糸が、愛おしく思えてきます。
勿論、ものが豊かな今、そこまでものを使い切るということも難しく、せいぜいリサイクルゴミとして、再生、再利用されれば充分。とはいえ、丹念に作り上げた手作り、手編みのものはもちろん、量販店のたまたま見つけて、着心地がよくて着続けているような衣類の穴やシミに、ダーニングという小さな針仕事の愛情を注いでみませんか?モノへの慈しみや、充実感があふれることをお約束します。